「また入力エラーだ……」「どこにボタンがあるのかさっぱりわからない」「結局、手書きでメモした方が早いんじゃないか?」
日々の業務の中で、導入されているシステムに対してこのような怒りや諦めを感じたことはありませんか?本来、私たちの仕事を楽にするために導入されたはずのITシステムが、逆に私たちの足を引っ張り、精神的な疲労を蓄積させる原因になっているケースは少なくありません。
この記事では、「システムの使いにくさ」の正体を突き止め、現場のユーザーが今すぐ取れる対策から、組織として取り組むべき抜本的な改善策までを徹底的に解説します。あなたの「使いにくい」という直感は、実は組織を改善するための重要なヒントなのです。
1. なぜ、あなたのシステムは「使いにくい」のか? 5つの根本原因
「使いにくい」という感覚を分解してみると、いくつかのパターンが見えてきます。まずは、何が原因でストレスが生じているのかを整理しましょう。
① 現場の「業務フロー」と「システム設計」のズレ
最も多い原因がこれです。開発側やシステム選定者が、現場の細かな手順や例外処理を把握しきれていない場合、実務の流れに逆行したUI(ユーザーインターフェース)が出来上がります。「Aを入力した後にCが必要なのに、画面上ではBを入力しないと進めない」といった動線の悪さがこれに当たります。
② 多機能すぎて「迷子」になる(機能の過剰搭載)
「せっかく高いお金を払うのだから」と、あらゆる部署の要望を盛り込んだ結果、メニュー項目が100個以上並ぶような複雑怪奇なシステムが誕生します。一般のユーザーが使うのはそのうちの5%程度。残りの95%の機能が、操作を邪魔するノイズとなってしまいます。
③ レガシーシステム(旧世代システム)の限界
10年以上前に構築されたシステムを使い続けている場合、現代の直感的なUI(スマホアプリのような操作感)に慣れたユーザーにとっては、それだけで苦痛です。動作が重い、ブラウザの「戻る」ボタンが使えない、ショートカットキーが効かないといった問題は、作業効率を著しく低下させます。
④ 適切なトレーニングとマニュアルの不足
システム自体は悪くないものの、使い方の説明が不十分なケースです。辞書のように分厚いPDFマニュアルを渡されるだけで、「直感的に何をすればいいか」を学ぶ機会がないと、ユーザーは「使いにくい」というレッテルを貼ってしまいます。
⑤ 「入力すること」が目的化している
データを活用する側の視点ばかりが優先され、入力する側の手間が考慮されていないシステムです。同じ情報を何度も入力させられたり、選択肢が多すぎて選ぶのに時間がかかったりする場合、現場は「自分の仕事が増えただけだ」と感じてしまいます。
2. 「使いにくいシステム」が引き起こす恐ろしい損失
システムの使いにくさを放置することは、単に「不便」なだけでは済みません。会社経営において、以下のような目に見えないコスト(隠れた損失)が発生しています。
| 損失の種類 | 具体的な影響 |
|---|---|
| 時間的損失 | 1回の操作で10秒余計にかかる場合、従業員100人が毎日20回操作すると、年間で数百時間の損失になります。 |
| ヒューマンエラー | UIが分かりにくいと誤入力が増えます。その修正作業や、誤ったデータに基づく判断がさらなる損害を招きます。 |
| 心理的負担と離職 | 毎日使いにくい道具を使わされるストレスは、仕事への意欲を削ぎます。ITツールがストレス要因で離職を検討する層も実在します。 |
| シャドーITの蔓延 | 「公式システムが使いにくいから」と、個人が勝手にExcelや外部アプリで業務を回し始め、情報漏洩のリスクが高まります。 |
3. 【現場向け】今すぐできる「使いにくさ」への抵抗術
システムを明日から刷新するのは無理でも、個人の工夫で負担を減らすことは可能です。まずは以下の方法を試してみてください。
■ ショートカットとテンプレートを極める
ブラウザで動くシステムなら、よく使う画面をブックマーク(お気に入り)登録する、入力内容を辞書登録(IME)するといった工夫だけで、クリック数を大幅に削減できます。定型文はメモ帳からコピペするだけでも、精神的な負担は変わります。
■ 「改善してほしいことリスト」を具体化する
単に「使いにくい」と叫んでも、システム担当者には伝わりません。「A画面からB画面へ移動する際に、顧客IDを再入力するのが手間」「この入力項目の並び順を、実際の伝票の順序と合わせてほしい」といった具合に、具体的かつ定量的な要望をメモしておきましょう。
■ 詳しい人に「自分だけのコツ」を聞く
不思議と同じシステムでも、涼しい顔で使いこなしている人がいます。彼らは公式マニュアルにはない「裏道(ショートカットや独自の整理法)」を知っていることがあります。恥を忍んで「どうやって効率化しているか」を聞いてみるのが近道です。
4. 【管理者向け】システムを「使いやすく」変えるための3ステップ
現場から不満が上がっている場合、管理職やシステム担当者が動かなければ事態は好転しません。以下のステップで改善に取り組みましょう。
ステップ1:UX(ユーザー体験)の観察
アンケートを取るだけでは不十分です。実際に現場の人間がシステムを操作している様子を、横でじっと眺めてみてください。どこで手が止まっているか、どこでマウスが迷っているかを見るだけで、改善点は一目瞭然になります。これを「オブザベーション調査」と呼びます。
ステップ2:DAP(デジタルアダプションプラットフォーム)の検討
システム本体を改修するには膨大なコストと時間がかかります。そこで注目されているのがDAPです。既存のシステムの上に「ナビゲーション」を上書き表示するツールで、操作ガイドを画面上に表示させたり、入力を自動補助したりできます。本体に手を加えず、使い勝手だけを向上させる魔法の杖です。
ステップ3:不要な項目の「非表示化」
機能を追加するのではなく、「削る」ことが最大の改善になる場合があります。権限設定によって、その部署に使わない項目を表示させないようにするだけで、画面は驚くほどスッキリし、迷いが消えます。
5. 次のシステム選定で失敗しないためのチェックポイント
もし、今のシステムをリプレイス(買い替え)する機会があるなら、二度と同じ過ちを繰り返してはいけません。選定基準を「機能数」から「使い勝手」へシフトしましょう。
システム選定の黄金律:
「マニュアルを読まずに、新入社員が15分で基本操作を覚えられるか?」をデモ画面でテストしてください。
- モバイル対応:PCの前でしか仕事ができないシステムは、現代のワークスタイルに合いません。
- API連携の豊富さ:他のツール(Slack, Teams, Excelなど)とデータがスムーズに連携できるか。
- 柔軟なカスタマイズ性:プログラミング知識がなくても、現場で項目名を変えたり配置を変えたりできる「ノーコード・ローコード」の要素があるか。
まとめ:道具に支配されず、道具を使いこなすために
システムは「道具」です。名工が道具を研ぎ澄ますように、私たちもビジネスの道具であるシステムを常に最適化し続ける必要があります。「使いにくい」という声は、わがままではなく、組織をより良くするための「現場からのアラート」です。
もしあなたが今、使いにくいシステムに苦しんでいるなら、まずはその違和感を書き留めることから始めてください。そして、それを周囲と共有し、小さな改善を積み重ねていきましょう。ITは本来、あなたを自由にするためのものなのですから。